なぎさ動物病院院長 荒井陽子 先生
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ペットから人に感染する病気はいろいろありますが、今回は妊婦さんが特に心配されるトキソプラズマについてお話します。
トキソプラズマとは、ほぼ全ての哺乳類や鳥類が感染する寄生虫病です。健康な成人が感染した場合、症状が出ないか軽い風邪の症状なので、気付かないことが多いようです。一度感染したことのある人は免疫があるので(抗体が陽性)、妊娠中に再度感染しても心配いりません。しかし免疫のない(抗体が陰性)妊婦さんが初感染するとまれに胎児にも感染し、流産や水頭症、精神運動障害などになることがあります。
感染した動物のうち、ネコ科だけが便とともに病原菌を排泄し、その他の感染した動物はその筋肉などに寄生します。そのため人の感染はネコの便から、その他の動物は豚肉や鶏肉などを加熱不十分で食べることにより感染します。ネコから感染しないための予防策としては、飼っているネコの排泄物の処理には手袋を着用したり、野良猫が庭を通ることも想定してガーデニングなどで土に触れる時にも手袋を着用した方がいいでしょう。ネコ以外からの感染予防策としては、調理の際、生肉は十分に加熱するとともに、生肉の調理に使用した包丁、まな板の汚染にも気をつけましょう。
私の病院でも時々、妊娠したのでネコを手放したい、里親を探してほしいという相談を受けることがあります。トキソプラズマはほとんどが生肉を食べることと、自分自身の手についた病原菌を口にしてしまうことからの感染です。手洗いなどで妊婦さん自身が気をつけてペットと接すれば防げる病気です。今まで家族同様かわいがってきたネコやイヌたちを手放さないためにも、ペットから妊婦さんへの病気を正しく理解し、人間もペットも幸せに暮らせる方法を見つけていきましょう。
昔はペットといえばイヌとネコがほとんどでしたが、近年のペットブームに伴い、飼育される動物の種類が増加し、ハムスター、リス、ウサギ、フェレット、チンチラ、モルモット、鳥類、爬虫類、などをペットとして飼う方も多くなってきました。また飼育環境が屋外から屋内へ変化することにより、ペットから人間に病気が感染する確率も高くなっています。とくに免疫力の弱い小さいお子さんやお年寄りのいらっしゃるご家庭では、人と動物との共通感染症(ズーノーシス)にかかる可能性が高くなりますので注意が必要です。
共通感染症の感染経路は様々で、接触による感染(皮膚糸状菌症など)、咬傷やひっかき傷からの感染(狂犬病や猫ひっかき病など)、動物の体液や排泄物が手に付着し、無意識にその手で口を触れて体内にとりこむことによる感染(回虫症、サルモネラ症、トキソプラズマ症など)のように病原体に直接感染する場合と、一度動物の体から離れた病原体に汚染された食品を口にしたり、病原体を運ぶ媒介昆虫に刺される事から間接的に感染する場合があります。
これらを予防するためには、ペットの健康状態をよく観察し、異常がみられる場合には早めに治療をすること。異常がなくても定期的な健康診断(検便など)により病気の早期発見を心がけること。またペットとの濃厚な接触(ペットにキスをしたり、口うつしで食べ物をあたえる。一緒にお風呂に入ったり、寝たりする。)は控え、ある程度の距離をおくことが大切です。さらに、あたりまえのことのようですが、ペットやその排泄物に触れた後はよく手を洗うことも忘れないでください。最も多い感染ルートが、ヒトの口から入ってくるものなのです。
ペットといっても私たちを癒してくれる家族の一員です。人と動物達とがこれからも長い間、お互いによりよい関係でいられるよう、ルールを決めて生活環境を少し見直してみてください。
参考文献:人と動物の共通感染症に関するガイドライン(環境省)